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遠藤 章
Isotope News, (781), P. 3, 2022/06
日本原子力研究開発機構原子力科学研究所の研究用原子炉JRR-3は、2021年2月に10年ぶりに運転を再開した。その後調整運転を経て、7月から11月まで実験装置や照射設備の利用を行い、2021年の運転を計画通り終了した。この期間、Ir-192, Au-198を製造し治療用に供給するとともに、Mo-99製造に向けた試験照射にも着手した。これは、東日本大震災以降、国内で止まっていた原子炉によるRI製造の再開である。本稿では、JRR-3を利用した医療用RI製造の今後の取り組みについて紹介する。
外間 智規; 大音師 一嘉*; 片岡 憲昭*
保健物理(インターネット), 57(1), p.65 - 69, 2022/03
本報告は、2021年9月11日に開催された日本保健物理学会シンポジウム「変わりつつある医療放射線防護;マネージメントシステムと生殖腺防護」の概要をまとめたもとのである。医療放射線防護のうち、特に放射線防護マネージメントシステムと生殖腺防護をテーマとして、現状の課題や解決に向けた考えについて示した。
川端 方子*; 本石 章司*; 太田 朗生*; 本村 新*; 佐伯 秀也*; 塚田 和明; 橋本 慎太郎; 岩本 信之; 永井 泰樹*; 橋本 和幸*
Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, 330(3), p.913 - 922, 2021/12
被引用回数:7 パーセンタイル:75.99(Chemistry, Analytical)加速器中性子を利用し、将来有望な医療RIであるCu及びCuの大量合成に関して、実験に基づく生成量評価と臨床に必要な生成量のPHITSコード使用による評価、そして大量のターゲット物質からのCu同位体の分離精製手法開発を行った。実験では55.4gという大量の、天然亜鉛試料を利用し、加速器中性子の照射による生成率について定量的な評価を行った。また、同時に臨床的に必要な量のCu及びCuの製造の可能性について、それぞれ100gの濃縮ZnおよびZn試料に対して、40MeV、2mAの重陽子照射により発生する中性子を照射する数値シミュレーションを行い、その生成量を推定した。また、大量の天然亜鉛試料からCu及びCuを分離するために、熱分離と樹脂分離を組み合わせた分離方法を開発し、73%の分離効率と97%の亜鉛回収率が得られることを実証した。これらの結果、このような加速器中性子による生成と本分離手法の組み合わせで、臨床応用のために必要なCu及びCuの大規模生産を提供することができることがわかった。
Benu, D. P.*; Earnshaw, J.*; Ashok, A.*; 土谷 邦彦; Saptiama, I.*; Yuliarto, B.*; Suendo, V.*; Mukti, R. R.*; 福光 延吉*; 有賀 克彦*; et al.
Bulletin of the Chemical Society of Japan, 94(2), p.502 - 507, 2021/02
被引用回数:11 パーセンタイル:65.6(Chemistry, Multidisciplinary)本研究は、TiO含有量を変化させたメソポーラスAlO-TiO複合材料の製造開発及び医療用放射性同位元素の製造のためのMo吸着剤の性能向上のために行った。TiOの含有量の増加は、元の形態を変えることなく、AlO表面へのより多くのTiOナノ粒子の形成を促進する。開発したAlO-2.5%Ti及びAlO-5%Tiのアルミナ試料はアモルファスであったが、AlO-10%Tiでは、TiOがAlO表面に被覆されていた。一方、TiOの添加により、比表面積はAlOの177m/gからAlO-5%Ti試料では982m/gまで大幅に増加した。これにより、Mo吸着量は、AlOで37.1mg/g、AlO-2.5%Tiで39.0mg/g、AlO-10%Tiで40.5mg/gであったが、AlO-5%Tiはよりも高い44.5mg/gを示した。これにより、従来のAlOの吸着能力と比較して、AlO-TiO複合材料の吸着能力の向上に見通しを得た。
塚田 和明; 永井 泰樹*; 橋本 和幸*; 川端 方子*; 湊 太志; 佐伯 秀也*; 本石 章司*; 伊藤 正俊*
Journal of the Physical Society of Japan, 87(4), p.043201_1 - 043201_5, 2018/04
被引用回数:10 パーセンタイル:59.94(Physics, Multidisciplinary)A neutron source from the C(d,n) reaction has a unique capability for producing medical radioisotopes like Mo with a minimum level of radioactive wastes. Precise data on the neutron flux are crucial to determine the best conditions for obtaining the maximum yield of Mo. The measured yield of Mo produced by the Mo(n,2n)Mo reaction from a large sample mass of MoO agrees well with the numerical result estimated by the latest neutron data, which are a factor of 2 larger than the other existing data. This result provides an important conclusion towards the domestic production of Mo; about 50% of the MoO sample mass with a single Mo in Japan would be met using a 100 g MoO sample mass with a single accelerator of 40 MeV, 2 mA deuteron beams.
永井 泰樹*; 塚田 和明
Isotope News, (753), p.28 - 32, 2017/10
Cuは"がん患者に、ただ1種類のCuを用いて診断と治療が行える能力を持つ理想的な医療用RIである"と考えられ、患者の"がん細胞と正常細胞への放射性医薬品の集積量を反映する画像化された診断情報"を基に、同じ放射性医薬品を治療に用いることで、患者に最適の治療が可能にするという、"個別化医療"の実現に向けた重要なRIである。そのため、Cu医薬品の実用化を目指して"高品質のCuを大量に製造する"研究開発が、1970年頃から現在に至るまで世界中で行われてきた。しかし、その製造法は未だ確立せず、Cu医薬品の研究開発が停滞する状況が続いている。われわれは、加速器を利用したCuの我が国独自の新しい製造法を提案してきた。そして、新製造法に基づく実験を行い、"高品質のCuが得られること、そして大量に製造できる可能性を有すること"を明らかにした。更に大腸癌を移植したマウスにこのCuを投与した実験を行い、Cuが腫瘍部に顕著に集積することを発見した。本稿では、Cuの新しい製造法及びその特徴、新製造法で製造されたCuを用いた担癌マウスの研究の現状を紹介する。
渡辺 幸信*; 金 政浩*; 荒木 祥平*; 中山 梓介; 岩本 修
EPJ Web of Conferences, 146, p.03006_1 - 03006_6, 2017/09
被引用回数:2 パーセンタイル:77.83(Nuclear Science & Technology)中性子源の設計のためには、重陽子入射反応に対する広範な核データが必要である。このため、我々はこれまでに、測定・理論モデルコード開発・断面積評価・医療用放射性同位体製造への応用、からなる重陽子核データに関する研究プロジェクトを立ち上げてきた。本プロジェクトの目標は重陽子ビームを用いた加速器中性子源の設計に必要となる200MeVまでの重陽子核データライブラリを開発することである。このプロジェクトの現状について報告する。
須郷 由美*; 橋本 和幸*; 川端 方子*; 佐伯 秀也*; 佐藤 俊一*; 塚田 和明; 永井 泰樹*
Journal of the Physical Society of Japan, 86(2), p.023201_1 - 023201_3, 2017/02
被引用回数:14 パーセンタイル:67.84(Physics, Multidisciplinary)Zn()Cu反応により合成したCuを利用し、結腸直腸の腫瘍を有するマウスにおけるCuClの生体内分布を初めて観測した。その結果、Cuの高い取り込みが、腫瘍ならびに銅代謝のための主要な器官である肝臓と腎臓で観察された。これは腫瘍に対するCuの蓄積を示す結果であり、CuClが癌放射線治療のための潜在的な放射性核種薬剤であることを示唆している。また、現状で入手可能な強い中性子を用いたZn()Cu反応を利用することでもたらされたCuの生成量の増加は、小動物を用いた治療効果について更なる研究の進展もまた約束するものである。
内藤 富士雄*; 穴見 昌三*; 池上 清*; 魚田 雅彦*; 大内 利勝*; 大西 貴博*; 大場 俊幸*; 帯名 崇*; 川村 真人*; 熊田 博明*; et al.
Proceedings of 13th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan (インターネット), p.1244 - 1246, 2016/11
いばらき中性子医療研究センターのホウ素中性子捕獲療法(iBNCT)システムは線形加速器で加速された8MeVの陽子をBe標的に照射し、中性子を発生させる。この線形加速器システムはイオン源, RFQ, DTL, ビーム輸送系と標的で構成されている。このシステムによる中性子の発生は2015年末に確認されているが、その後システムの安定性とビーム強度を共に高めるため多くの改修を施した。そして本格的なビームコミッショニングを2016年5月中旬から開始する。その作業の進展状況と結果を報告する。
井上 登美夫*; 早川 和重*; 塩足 春隆*; 高田 栄一*; 取越 正己*; 永澤 清*; 萩原 一男*; 柳澤 和章
Journal of Nuclear Science and Technology, 39(10), p.1114 - 1119, 2002/10
被引用回数:4 パーセンタイル:29.2(Nuclear Science & Technology)本件は、平成11年度及び平成12年度に調査した「我が国の放射線利用経済規模」、「我が国と米国の放射線利用経済規模」に関連して、医学・医療利用についての報告である。調査の結果は次のとおりである。(1)米国医療費132兆円の89%を占める個人医療費117兆円に対し我が国の国民医療費29兆円である。両者には4倍の差異がある。(2)放射線利用項目のうち経済規模が大きい順に並べると、(a)画像診断(X線,CT,核医学),(b)医療機器,(c)造影剤,(d)放射線医薬品,(e)前立腺がん(粒子線治療を含む),(f)RI,(g)EDGPET等の順となる。(3)日米の放射線利用経済規模は、米国5.9兆円に対して日本は1.4兆円である。両者で約4倍の差異がある。医療費総額に対する割合は、米国5.9/117100=5%、我が国は1.4/29100=4.8%となる。即ち、医学・医療における放射線利用率は日米ほとんど変わらず約5%となっている。
松村 明*; 山本 哲哉*; 柴田 靖*; 中井 啓*; Zhang, T.*; 阿久津 博義*; 松下 明*; 安田 貢*; 高野 晋吾*; 能勢 忠男*; et al.
ポストシークエンス時代における脳腫瘍の研究と治療, p.427 - 435, 2002/07
新しく整備されたJRR-4号炉にて混合(熱・熱外)中性子を用いた術中中性子捕捉療法(粒子線治療)のphaseI/II臨床治験を行い、その有用性を検討し、さらに患者位置セッテイングシステムと線量評価システムの検証も行う。1999年10月よりJRR-4号炉にて混合中性子を用いてPhaseI/IIの臨床研究を開始した。対象は7例で悪性神経膠腫GradeIII)3例・神経膠芽腫(GradeIV)が4例の初発例で、治療対象は以前に放射線治療を受けていないもの,一側の脳半球に限局している,全身的な合併症や多重癌なし,年齢は18-70歳までとした。Follow up期間は2ヶ月から21ヶ月であり、平均(median生存期間は神経膠芽腫で15.7ヶ月でこれまでに1例が腫瘍の遠隔再発により死亡し、もう1例は脳以外の原因で15ヶ月目に死亡したが腫瘍再発はなかった。悪性神経膠腫は平均(median)生存期間 16.3ヶ月であり、3例中1例が脳以外の原因で死亡したが、残り2例は生存中で経過観察中である。神経膠芽腫は1年生存率が75%,悪性神経膠腫は1年生存率は100%で、全体としても1年以内の死亡は1例のみである。症例数も少なく、症例選択の問題もあり、他の成績と直接比較できないが、初期段階としては満足すべき成績と考えられる。今後さらに症例を増やして検討したい。なお、原研の本研究に対する協力は、臨床研究を補助する熱中性子及び血液中ホウ素濃度測定並びに物理線量評価,患者セッティングシステムについて行った。
久米 民和
Proceedings of 24th JAIF-KAIF Seminar on Nuclear Industry, p.RI_1_1 - RI_1_12, 2002/00
日本における放射線利用の現状について、平成11年度に実施した放射線利用経済規模調査結果に基づき紹介する。平成9年度におけるわが国の放射線利用経済規模は8兆5699億円であり、GDP比約1.7%であった。内訳は、工業利用7兆2627億円(85%),医学・医療1兆1905億円(14%),農業1167億円(1%)である。工業利用分野の主なものは、イオンビーム処理製品,放射線加工処理製品,放射線滅菌,照射施設などであり、とくにIC製造などのイオンビーム処理が全体の75%を占めていた。放射線医学・医療分野では、大部分が医科利用と歯科治療であり、その比率は91%:9%であった。農業利用分野は、馬鈴薯照射の食品照射,不妊虫放飼法によるウリミバエの根絶,コメやナシなどの突然変異育種,RI利用が主なものであるが、他の分野に比べ規模が小さいことが明らかとなった。
柳澤 和章
原子力百科事典ATOMICA(インターネット), 4 Pages, 2001/00
原子力利用はエネルギー利用と放射線利用の2本柱と言われてきているが、その柱の高さ(経済規模)がこれまで明らかでなかった。放射線は工業分野に限らず、農業及び医学・医療分野でも幅広く活用され国民福祉の向上に役立ってきているが、その拡がり度合いを定量的に説明しようとすると意外にわからないことが多かった。物事の実態を定量化する尺度として、俗に「ヒト、モノ、カネ」といわれるが、放射線利用産業の売上高(すなわち経済規模は)一体どの位の拡がりを持って存在しているのであろうか。このような素朴な疑問に答えるため、平成11年度、科学技術庁からの委託により原研を中心に大学、民間が一致協力して我が国における放射線利用の経済規模を網羅的に調べあげた。その結果、以下のような知見を得た。(1)放射線を利用した産業の経済規模は、工業で7兆2,627億円,農業で1,167億円,医学・医療で1兆1,905億円となった。この三分野の合計は8兆5,699億円(対GDP比1.7%)となっている。(2)エネルギー利用の経済規模は、放射線利用とほぼ同じような考え方で算出すると約7兆2,742億円となった。(3)放射線利用とエネルギー利用の合計を原子力利用の経済規模と称するとその額は約16兆円(対GDP比3.2%)となる。放射線利用はエネルギー利用に勝るとも劣らぬ経済規模を有していた。本報は、調査の成果を広く普及する一つの手段として、「原子力百科事典ATOMICA」に、成果の概要を掲載するものである。
柳澤 和章; 久米 民和; 幕内 恵三; 竹下 英文
放射線と産業, (88), p.46 - 53, 2000/12
俗に、原子力量はエネルギー利用と放射線利用の2本柱と言われてきているが、その柱の高さ(経済規模)がこれまで明らかでなかった。今回の調査の結果、平成9年度の時点で原子力利用は約16兆円、対GDP比3.2%になっていることが初めて明らかになった。民主導で開始された放射線利用は、官主導で開始されたエネルギー利用(原発)に比べその経済規模は小規模で、せいぜい数百億円と多くの原子力専門家は考えていた節がある。ところが、いざ蓋を開けてみると、放射線を使った半導体産業(約5兆円規模)や自動車産業(ラジアルタイヤ1兆円規模)などの躍進により、医学・医療用(約1兆円)とあわせて8兆6千億円の規模にあることが判明した。これに対して、エネルギー利用の経済規模は7兆3千億円となっており、まさに、事実は小説よりも奇なりの格言とおりの結果となった。驚くのは経済規模だけでなく、放射線利用の中身であり、私たちの生活の隅々まで実に巧みに利用の便に供されていることがわかった。生活の基盤はエネルギーで支えるが、生活のゆとりは放射線で支えている感をもった。このような良いことは、一部専門家の常識として止めておくのではなくて、広く国民に知らせしめ放射線利用の恩恵を感じ取って頂くのがよいと考える。
鳥居 義也; 山本 和喜; 岸 敏明*; 堀 直彦; 熊田 博明; 堀口 洋二
Proceedings of 9th International Symposium on Neutron Capture Therapy for Cancer, p.241 - 242, 2000/10
JRR-4は燃料濃縮度低減化のため改造され、併せてホウ素中性子捕捉療法(BNCT)のための医療照射設備が整備された。JRR-4医療照射設備は重水タンクの重水厚さを変更すること及びカドミンシャッタを開閉させることにより熱中性子から熱外中性子までエネルギーを選択できるように設計されている。これらは3つの代表的モードで分類され、それぞれ熱中性子モード1、熱中性子モード2、熱外中性子モードと呼ばれている。このため、これまで行われてきた熱中性子利用BNCTの継続及び深部治療に有効な熱外中性子利用BNCTにも対応できる設備となっている。JRR-4医療照射設備を用いた第1回BNCTは平成11年10月24日に行われ、これを含めて平成11年度中に5例のBNCTが実施された。本発表はこのJRR-4医療照射設備の概要について行うものである。
柳澤 和章; 久米 民和; 幕内 恵三; 竹下 英文
原子力eye, 46(8), p.62 - 68, 2000/08
放射線は工業分野に限らす、農業(アイソトープ利用も含む)及び医学・医療分野でも利用され国民福祉の向上に役立ってきている。ところが、その利用度を定量的に説明しようとすると意外にわからないことが多い。物事の実態を定量化する尺度として、俗に「ヒト、モノ、カネ」といわれるが、放射線利用産業の売上高(すなわち経済規模は)一体どの位の拡がりを持って存在しているのであろうか。このような素朴な疑問の答えるため、平成11年度、科学技術庁からの委託により原研を中心に大学、民間が一致協力して我が国における放射線利用の経済規模を網羅的に調べあげた。その結果、以下のような知見を得た。(1)放射線を利用した産業の経済規模は、工業で7兆2,627億円、農業で1,167億円、医学・医療で1兆1,905億円となった。この三分野の合計は8兆5,699億円となっている。(2)エネルギー利用の経済規模は、放射線利用とほぼ同じような考え方で算出すると約7兆2,742億円となった。(3)放射線利用とエネルギー利用の合計を原子力利用の経済規模と称するとその額は約16兆円となる。半導体加工(約5兆4千億円)を放射線利用に含めるかどうかによって、放射線利用とエネルギー利用の大小関係は逆転するが、いずれにいても放射線利用はエネルギー利用に勝るとも劣らぬ経済規模を有していた。
田中 隆一*
原子力システムニュース, 11(1), p.14 - 20, 2000/06
原研が中心となって放射線利用の国民生活へ与える影響を、工業、農業及び医学・医療の3分野における工場出荷額や診療費で表される経済的規模に重点を置いて多面的かつ定量的に評価する調査を科学技術庁からの委託により実施した。調査の対象年は、入手できる公開統計データ等の刊行時期の関係から、平成9年度となった。(1)調査の結果、半導体加工(経済規模は約5兆円)を除外した狭い意味での放射線利用の経済規模は工業、農業及び医学・医療合わせて約3兆円で、原子力発電による電気売上(約6兆円)の半分程度であることがわかった。(2)半導体加工を含めた広い意味での放射線利用については(約8兆6千億円)となり、原子力エネルギー利用(総額で約7兆3千億円)よりも大きくなることがわかった。
田中 隆一*; 柳澤 和章
放射線教育, 3(1), p.51 - 57, 1999/00
原子力利用はエネルギー利用と放射線利用で出発しすでに50年くらい経っている。前者の研究開発及び安全性を担ったのは主として原研東海研であり、後者の研究開発を担ったのは原研高崎研と考えられる。そして現在、エネルギー利用については、50数基の原子力発電所が稼働中であり、そこからの電気は平均で10軒中3軒(都会では10軒中5軒)の割合で家庭に配給されている。一方、放射線利用については、工業、農業そして医学・医療等の分野で実用化が促進されてきたが、原発のような巨大産業の形態ではなく、むしろ家内工業といえるような形態で発展してきた。工業での煙探知機、農業でのゴールド20世紀ナシ、医学・医療でのX線撮影といったようなキーワードから容易に類推できるように、放射線利用は、エネルギーとは一味違った形で私達の身近に存在している。原子力利用は円熟期に入ったと認識されるが、その円熟度を国民の誰にでも理解できる尺度で具体化しようとすると、意外に難しい。例えば、平成9年度の国民医療費では29兆円が使われたが、X線撮影といった放射線を利用した治療・診断費はどのくらいの割合になっていますかと問われて、即答できる原研の方はどの位いるであろうか。工業利用では如何ですか、と問われたらどうであろうか。上記のような状況に応えるために、原研高崎では、平成11年度に工業、農業及び医学・医療の専門家並びに経済学者等16人からなる「経済評価専門部会」を新設した。主たる目的は、工業等の3分野における放射線利用の拡がりを経済規模という尺度で把握しようとしたものである。本報は、その調査結果を速報するものである。調査の結果、平成9年度における、我が国の放射線利用の経済規模総額は約8兆6千億円と見積もられた。
山口 恭弘
保健物理, 33(3), p.253 - 254, 1998/09
日本保健物理学会企画行事として、シンポジウム「人体ファントム高度化の意義とその方向」が、平成10年3月に開催された。このシンポジウムの構成、内容等は「高度人体ファントム専門研究会」によって準備された。そこで学会誌への特集化にあたり、この専門研究会の活動内容及びシンポジウムに至った経緯を述べる。ファントムは、放射線防護、医療等の分野で幅広く用いられている。専門研究会は、これらのファントムに関係する課題を分野別に調査整理し、ファントム高度化に向けた今後の方向性についてまとめた。その結果、CT画像等に基づく精密化及び代表性を持たせるための標準化の観点からファントム高度化を具体化する必要があることを示した。シンポジウムは、以上の議論をさらに拡大した公開の場で行うことを目的として開催され、十分な成果が得られた。
桜井 文雄
エネルギーフォーラム, 43(516), P. 137, 1997/12
医療照射BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)には、線及び速中性子の混入が少ない熱中性子照射場が不可欠である。このため、JRR-2に治療に必要な熱中性子を原子炉から取り出すための医療照射設備を開発整備し、対応してきた。しかし最近、より深部の脳腫瘍にも治療硬化をあげるとともに患者の内体的負担を軽減できる熱外中性子を用いる無開頭BNCTの研究が世界的に開始された。これに対応するため、JRR-4に熱中性子及び熱外中性子を利用できる医療照射設備を現在開発整備している。本報告では、この新しい医療照射設備について紹介する。